「このおまじないはね、月の魔法なんだ」
満月の夜、
水のなかに「月に代わる何か」をいれ、
いれた数だけ願いを言う―――
そうすると、今の望みが叶うという。
「月の代わりってなに?」
仔ジカは問いに答えない。
まるいものだろうかと、かばんの中をまさぐってみる。
出てきたものは、
スケッチブックに色えんぴつ、部屋の鍵にビスケット・・・・・・
それらしい物は見あたらない。
困り果てて、ワンピースのポケットに手をつっこむと、
銀色のコインが一枚、
手の中にあった。
それは月のようにまるく、月のような輝き――・・・・・・
リコッタはこの不思議な仔ジカを信じ、
目の前にあった水たまりの中へ
コインを落とした。
コインはまるで、
水面にうつる月のように光っている。
リコッタは小さく息を吸って、
ひとつの願いを言った。
「お月さま、この子の足を治して」
・・・・・・すると、
水たまりの中からあたたかい光があふれ出し、
仔ジカをやさしく包み込んだ――・・・。
これが・・・・・・月の魔法?
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